「陸王」を目指そう!日本の製造業や各企業の人材育成

1980年代の“Japan  as  NO.1”と言われたころ、アメリカの雪の多い地域では価格は高くても日本車が買われた。その理由は、その地域では雪を解かすため塩をまくのでアメリカ国産車は錆びてしまうから錆びない日本車を買うということであった。これは塩害対策が取られた高品質の日本製の自動車鋼板を使用した日本車が優位を示した事例であった。
また、当時アメリカの輸入車で衝突した車のドアの内部からコカ・コーラの缶が出てきたという話は有名であるが、製造工程における品質管理の日米差が示された顕著な事例であった。
そういう製造業における“Japan as NO.1”の時代は全く過去のものになってしまったと思わざるを得ない何とも悔しい製造業(鉄鋼や自動車等)における問題事例を最近何度も見聞きする。

この問題事例における無資格者の検査や検査データの改ざん・偽装など、「高品質の日本製品」の看板にまともに泥を塗るような事例が起きているのである。約20年前のバブル崩壊後における経済のグローバル化に伴う中国等の低価格製品に対抗するため製造業においては低コスト国での製造(工場の海外移転)や低価格での調達(アウトソーシング)が行われたが、品質基準を下げたり、品質データを改ざん・偽装するようなことまで行われていたとは思いもしなかった。

ただ、低コスト国での製造(工場の海外移転)や低価格での調達(アウトソーシング)をよく考えてみると、例えば低コスト国での製造(工場の海外移転)は中国からベトナム、さらにはミャンマーやバングラディッシュなどにも展開されているが、日本の製品が世界でNO.1の品質を確保するまでには少なくとも30年以上の歴史を要している。

その30年以上の歴史の中には例えば、現場作業において作業長・工長・班長の作業集団単位に納期・原価・品質に関してどんなに細かいことでも作業改善提案を出し合い、その集団の中で役職の上下や職種の違いを乗り越えて議論を行い、目標に向かって集団の全員が一緒に協力しながら作業改善や目標実現に取り組んでいったのである。これは現場の小集団活動と称されたが、このような役職の上下や職種の違いを乗り越えて議論が出来ることによって人はスキルアップや知識(ノウハウ)の蓄積あるいは人間関係の向上を図ることができ成長(人材育成)していったのである。

製造業の現場を経験されたり、見学されたことのない人には理解され難いかも知れないが、分かりやすく言えば池井戸潤の「下町ロケット」や「陸王」(TVドラマ)に見るように社長自らが目標の実現に向かって従業員や関連会社と一緒になって(場合によっては寝食を共にしながら)諦めることなく毎日全員が努力を続けた結果が目標の実現につながり、そのことが製品品質や会社自体の信頼を確保することにつながっていっているのである。このような努力の積み重ねがないと一流の製品品質や一流の企業は生まれないし、人材の育成はできないのではなかろうか。
そういう観点で低コスト国での製造(工場の海外移転)を鑑みると、現在の進んだ技術や製造システムがあったとしても低コスト国での製造でいきなり高品質の製品ができる訳がないと言わざるを得ない。その例は散見されている。

また同様に、低価格での調達(アウトソーシング)についても同じことがいえる。これまでの調達先に一層の低価格でアウトソーシングする場合はいくらか品質は保証されるかもしれないが、最近の低価格での調達(アウトソーシング)はこれまでの調達先では価格が下がらないから他の低価格で受けてくれる外注先に調達(アウトソーシング)するケースが多々見られる。この場合は低コスト国での製造に近いものがある、いやそれ以上に低コスト国での製造には熟練した社員が要所要所に配置されるが、新たな外注先への調達(アウトソーシング)においてはその会社のやり方に従わざるを得ない。
そのやり方で見積もりがされているから、それに口出しすると価格を上げざるを得なくなるからである。いわばブラックボックスのままで低価格での調達(アウトソーシング)を行うことになるのである。このケースで問題が発生した場合、その原因究明や対応策に時間がかかり結果としてその製品や会社は信用を失うケースが散見されている。

さて、どの企業や組織においてもみられることであるが、経営者は上位管理者やプロジェクトマネジャーなどに、上位管理者やプロジェクトマネジャーは下位管理者やプロジェクトの各リーダーなどに納期・価格(コスト)などを指示(オーダー)すればそれでことは済んだと思っている輩が多い。これは社内における上から下へのアウトソーシング(垂直アウトソーシング)そのものである。その結果が「この度はこのような事態を招きましたことを心から深くお詫び申し上げます。ちゃんと指示はしていたのですが現場や担当者にその意が伝わらなかったことは不徳の致すところでございます。今後は再発防止に努めます・・・」 この台詞を聞かない日はないくらいである。

今こそ、現場の小集団活動や「陸王」に見るようにトップ自身が社員や関連会社に目標を提示し、その進め方を説明するとともに、一緒になって作業に取り組む姿勢を示すべき時である。松下電器産業(現在のパナソニック)の松下幸之助氏、本田技研工業(ホンダ)の本田宗一郎氏など有名な創業者はトップになっても社員や関連会社と直接コミュニケーションを取りながら組織の中に入り込んで、問題を解決したり、社員や関連会社を鼓舞しながら仕事を進めてきたのである。これが“Japan as NO.1”の時代に世界から注目された日本的経営なのである。

世界のトヨタは今でも創業者である豊田佐吉氏の遺志を体した「豊田綱領」(例、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし等)を社是としている。この社是こそ日本的経営の真髄を表したものでものではないかと言っても過言ではない。グローバル化というまやかしに踊らされて低コスト国での生産(工場の海外移転)や低価格の調達(アウトソーシング)に奔走するのではなく、企業の原点に立ち返って経営者、管理者、全社員及び関連会社が一体となって企業目標から仕事のやり方を再構築していくことが極めて重要なのである。

2018年1月  Dr.ベスト

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Dr. ベスト
Dr. ベスト
戦後の復興~高度成長~オイルショックに伴う大不況~バブル&バブル崩壊~全てを経験。(財)日本情報処理開発協会や大学を通してIT人材育成に従事。企業における人事・採用や、大学における就職指導、また人材紹介事業を通して就職/転職のスムーズな習得方法(コツ)を追究中。

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